昨今日本でも、ウェブから反応を得るために、コンテンツの活用が企業に急速に広まっています。素晴らしいことだと思います。
そして加えて、コンテンツをただ出すのではなく、データを基にしてコンテンツなどを活用する「マーケティング・オートメーション(MA)」ツールとその機能・効果に注目が集まっています。
コンテンツに対する訪問者の行動履歴やマイクロコンバージョンなどの情報を元にして、個別のアクセス者(リード・見込み客)ごとに適切なマーケティングを行い、スコアリングをして個別に管理して最適化し販売・顧客化につなげよう、営業を効率よくあるいは自動化しようというのがMAツールです。
ではマーケティング・オートメーションは中堅・小規模事業者の方々も注目し今後チャンスがあれば優先度高く導入すべき物・サービスなのでしょうか?
結論から言えば、
- 今導入して成果に直結させられるのは、すでに既存のWebマーケティングをある程度自社内で浸透させている企業のみ
- そうでない場合は、パートナー企業と徹底的に二人三脚で企業の仕事の仕組み含めて変えていく覚悟がないと厳しい
と思います。魔法の杖や銀の弾丸ではないので、入れたらバンザイというわけではありません。運用してなんぼです。
一般的には外部パートナーに入れてもらうと思いますが、そことの意思疎通や、会社として足並みをそろえて各部門が協力しないと、導入コストに見合った成果は期待できません。
そもそもMA(マーケティング・オートメーション)とは?
まだ定義も定まっておらず、これだという物はありませんので、ひとまず英語版Wikipediaを参照します。
英語版も議論を要するとされていますが、中立的なイメージです。
(※日本語版は突然リスティング広告などの文脈が入ってくるので、少々紹介しづらい)
英語版の冒頭の文章がシンプルで的を射ています。
Marketing automation refers to software platforms and technologies designed for marketing departments and organizations to more effectively market on multiple channels online (such as email, social media, websites, etc.) and automate repetitive tasks.
(マーケティングオートメーションとは、マーケティング部門や組織全体が、より効率的にオンライン上のさまざまなチャネルを使ってマーケティングを行えるようにする、あるいは自動化することを狙ったソフトウェアプラットフォームないし技術のこと)
出典:Marketing automation – Wikipedia, the free encyclopedia
https://en.wikipedia.org/wiki/Marketing_automation
オートメーションというと、自動的にやってくれる機械のような物を導入するイメージになるかもしれませんが、注目すべきは「より効率的に」の部分です。
つまり、これは
すでに自社の潜在客や顧客に対して、様々なチャネルを通してのWebマーケティングを行っている企業が、それをより効率化するためのツール
なんです。
潜在客を発見し、それを見込み客化して、初回客にし、顧客化するという流れを実践している企業が使う物です。
仕組み作りが前提
なので、言い方を変えると
「現状Webマーケティングによって潜在客や見込み客を育成して初回客にする仕組みを作っていない企業が導入しても、効果はない。まずは仕組みを作るところから一緒にやることになる。」
と言えます。
もちろん、これ自体は素晴らしいことです。これを機に一足飛びにマーケティングの仕組みを自社に取り入れて、さらに効率化も一緒にやろうというのは十分に「あり」です。
予算と人間と時間はかかりますが、きちんとした計画の元に行えば、十分なリターンが得られるでしょう。
なぜ様子見なのか?それは導入前提課題がたくさんあるから
ヒトモノカネが潤沢な企業は、それで良いと思いますが、とは言え課題もあります
- 投資額、時間の負担が大きい
- 社内文化や業務の仕組み含めて変える必要性がある
- 一時的に社内の業務量が大幅に増える可能性が高い
- 作って終わりではなく運用こそが神髄、ずっと付き合う覚悟が必要
といったものです。
では端的にどうなったら導入を考えるべきか?
結論から言えば、私はMAツールを入れていいのは、マーケティングを行っていて
「こんな感じで自動化したり、こういうスコア付けができるようになったらいいのにな」
と自然と思いつく段階までいった企業だけだと考えています。
…
そうでない場合、「ツールに振り回される」傾向が強いです。
特に不慣れな会社さんであればあるほど、「良く分からない物はきっといい物だ」と考えがちです。しかしツールは所詮ツールですから、間違っていることもあります。
また、お客さんに合わせてメンテナンスをしなければ、市場の変化について行けなくなります。長
い付き合いなのです。もちろんベンダー担当者の方がサポートはしてくれると思いますが、本来マーケティングの主役は実際にお客さんと触れているみなさんです。
まずは「アンオートメイテッド・マーケティング」に着手
つまりは、振り回されるくらいなら、まずは「アンオートメイテッド・マーケティング」に着手することをお勧めしたいです。それも、コンテンツを中心とした、です。
とは言えマーケティングオートメーション(MA)に着手したいという方もいらっしゃるかと思います(私もやりたいですし)。なので、ここで、MAに着手する際に最低限気をつけて頂きたいポイントをまとめていきたいと思います。
気になっている方はぜひご覧下さい。
また、MAにまだ興味はなくともコンテンツ作成という観点でも、持ち帰って頂ける物がたくさんあると思います。
マーケティングオートメーションに着手する際 気をつけるべきポイント
今回はそれを、失敗例を紹介しているブログから抜粋してご紹介したいと思います。
※コンテンツ作成そのものについては、ブログのこちらの記事達をぜひご覧下さい。
【保存版】戦略的WEBコンテンツ制作・作成術(コンテンツ・マーケティング)
https://roundup-inc.co.jp/content-101/
リーマンショックをコンテンツの力で乗り切った、RiverPoolAndSpa社の代表かつ現在はコンテンツマーケティングのコンサルとして活躍しているMarcus Sheldon氏のブログ The Sales Lionから、Marcus氏に教わったKevin Phillips氏の記事です。
アラスカの睡眠治療クリニック「Alaska Sleep」でコンテンツ・マーケティングを行った際を思い出して、8つの悔やまれるポイントをまとめています。結果としては成功しているのですが、悔やまれる点がまとめられています。
8 Content Marketing Mistakes I Made in My First Year as a Marketer
https://www.thesaleslion.com/content-marketing-mistakes-first-year-marketer/
※残念ながら気づいたら公開停止されてしまったようです。
当時読み取った内容をご紹介していきます。
1. お客さんのペルソナに対しての考察が足りなかった
まずこの点についてKevin Phillips氏は以下の様に自己分析しています。
- 睡眠治療クリニックに来る人なので、睡眠障害の人だと大きく括ってしか考えていなかった
- 来院者の90%が睡眠時無呼吸症候群の患者さんだったため、それ以外を無視していた
- しかし、実際には睡眠時無呼吸症候群を除いても世界には70以上の睡眠障害の原因があった(軽いストレスによる不眠症から、クライン・レビン症候群(一日20時間以上寝てしまう)まで
- みな「睡眠について問題を抱えている人」で共通したペルソナとしてみてしまっていた
という状況だったと。
これについては、最後が最も重要なポイントです。
なぜなら例えば、調べているのは患者本人ではないケースも多いはずだからです。例えばその配偶者や親などの家族です。本人と家族ではWANT情報は異なりますし、サイトを見ているときの精神状態も違うことでしょう。
これを一緒にしてしまうことはできませんが、同じコンテンツを提供することしかしていなかった、とのことです。
Kevin Phillips氏は
実際の睡眠時無呼吸についての記事のほとんどは、患者自身に向けたものであり、その記事の読者になる傾向が一番強いはずの妻たちに向けたものではありませんでした。
私がやるべきだったことは、患者自身とそのパートナーの双方に向けた、少なくとも上位3つの睡眠障害のペルソナを持つことでした。
と述べています。
2.適切なワークフローやキャンペーンを作成できなかった
マーケティングオートメーションの肝は、適切にお客さまのことを把握し、ターゲットの心理状況に即したアプローチを効率よく、あるいは自動的に行えるか否かにあります。
しかし、項番1で書いたように、そもそもの顧客理解が不足していたために、ワークフローやキャンペーンが的を射ていない物になってしまったとのことです。
例えば、ワークフローの中で、睡眠検査への申込フォームがあり、その入力項目に「アラスカ州に住んでいるか」という設問がありました。
なぜかというと、アラスカ以外にサービスを提供できないためです。具体的には、アラスカに住んでいないと、お断りのメッセージが出るようになっていました。
しかし実際は、患者本人はアラスカにいるが、検索している家族は違う州にいる、というパターンも少なくなかったようです(特に親子関係)。そういった顧客をばっさり切り捨てる結果となっていました。
ではどうすべきだったか?記事を抜粋すると
私がすべきだったことは、そのフォームに、フォーム記入者が誰であるかを問う質問を設けることでした。つまり、睡眠障害を持っている人自身なのか、それともパートナーの代理で情報を探しているのかということです。
そうすれば、どのような読者であっても十分な情報だろうと思ってしまうことなく、実際にそのメールを受け取る人に向けて、もっと良いメールを書くことができたと思います。
ターゲットに対する認識のズレが、大きく成果に影響する、ということですね。
どうしても時間の都合やリサーチの手間の関係で、私たちは自分の頭の中にあるイメージと、身近な人間とのディスカッションだけで真実をつかめると思ってしまいがちです。そしてそれを定期的に見直すこと、現実と対照することを忘れてしまいます。
しかし、それはとてもリスキーです。もし本当にその時点でのターゲットを正確に理解できていたとしても、ターゲットのニーズはしばらく経ったら変わっているかもしれません。
3. 見込み客のスコアリングを軽視していた
スコアリングというのは、サイト訪問者を様々な切り口(主に見込み度)でランク付けすることです。
それにより、一定のスコアより上に行ったターゲットには、別途クロージングに近い買い手むけのメッセージを送るなど、積極的なアプローチに入っていくような切替ができます。
記事によると、Kevin Phillips氏はスコアリングはあまり意識していなかったそうです。
その結果以下の様な事が起こりました。
2015年3月、あるビジターがサイトを訪れ、記事を読み、CPAP治療手段に関する電子書籍をダウンロードしました。8月、その人物は、携帯できてキャンプにも持っていけるような特殊な機械を注文したのです。
その機械について、私はレビュー記事を書いたことがあり、我々のクリニックからそれを注文できるようランディングページを作っていました。 まさかと思い、彼がその機械を注文した時に、私は彼のコンタクト履歴を見ました。
そして、なんということでしょう、彼は、この半年間にたった2つのフォームしか送っていなかったのに、サイトを何度も訪れ、記事やランディングページを見ていたのです。彼はそのサイトに50回以上来ていて、記事やランディングページを同じくらい見ていました。
他のページはほとんど見ていませんでした。彼はただ、その機械自体について知りたかったのです。それは、彼が自分自身にそれを購入するよう説得しているようでもありました。でもその小さな壁を乗り越えるのに、半年かかったのです。
しかし、もし私がもっとよく見込み客のスコアリングをセットしていたら、特にサイト訪問者に関する数字について注目していたら、彼にもっと早く気付くことができ、彼に、仕様明細書やお客様の声、もしくはその他、彼にもっと早く決意させるようなコンテンツを送ることができたかもしれません。
結果的に購買してもらえはしたのですが、3月にEBOOKをDLしてから購買まで5ヶ月。その間このユーザーは何度も何度もアクセスし特定のページを見る行為を繰り返していました。
もしこのシグナルをきちんとMAツールが把握し、管理者に教えてくれていたとしたら、引用文中にもありますが、すでにメールアドレスをEBOOKダウンロード時にこちらは得ているのですから、その製品に対する、彼が見ていない詳細情報や、直接の問合せを行うこともできたでしょう。
そうすれば、お客さまの貴重な時間を奪うこともなかったでしょうし、同じようにたくさん見ているシグナルを出しているのに、こちらが気づかなかったせいで去ってしまった他のユーザーに対しても、きっともっとよい対応ができたのではないでしょうか。
MAを使う場合には、スコアリングは重要だという1つの好例ではと思います。
4.本当に必要としていた企業全体の参加を得られなかった
裏の事情としてはこれが一番大きいかもしれません。Kevin Phillips氏は結局この記事を書いているときに至るまで、CEOや経営陣に対して、マーケティングオートメーションやコンテンツの価値について、きちんと理解してもらうことができなかった、と述べています。
また同様に、他の従業員からも協力が上手く得られず、懐疑的な目線で見られていたようです。業務だから仕方なく協力するといった立ち位置だったと。
そのため
- 電話でお客さまと従業員が話す際、お客さまにウェブサイト上のコンテンツを案内したり、とっさに分からないことを従業員がFAQで調べるようなことをさせられなかった
- 動画コンテンツなど、従業員の参加が必要なコンテンツを作ることができなかった
- 初期に、フォームから見込み度の低い問合せがたくさん来た際に、営業チームから迷惑がられて、協力を得られなくなった、そこからの改善サイクルを回せなかった
- 営業チームに、Webサイト上での見込み客の動きから見た情報を展開できなかった
という状態だったようです。
上記のような事ももちろん結果としては注目すべきではありますが、マーケティングオートメーションの最も注意すべき点がここにあります。
マーケティングオートメーションツールは既存の営業プロセスや、バリューチェーンに大きな影響や変化をもたらします。それは、MAツールの導入が変化と効率化を意図していることからも避けられないことです。
また、その変化は事前に予測可能な物もあれば、見込み客の思わぬ反応によって起こる、予測できない物もあります。
なので、企業全体でMAツール導入による変化に協力する、変化を受け入れる前提を作っておかないと先ほどのような、既存の仕組み vs 導入チームといった分裂が起きてしまいます。
適切にワークフローやキャンペーンを設計するには、行った事に対するPDCAが不可欠、特にフィードバックが必要です。そしてそのためには協力を得られなければなりません。
Kevin Phillips氏はROI(投資対効果)すら把握できないまま、訪問者数とコンバージョン数だけでpdcaを回していたようです。実際にそのうちどれくらいが実際の申込に繫がったのか、客単価はどうなのかなどはいっさい教えてもらえない状況だったそうです。
(Kevin Phillips氏は今や小さなクリニックのサイトを、月間に25万アクセス、200CVのサイトに育てたそうです、それでも協力はなかったと)
まとめ
元記事には8つのポイントが紹介されており、今回その中から4つを紹介しました。
マーケティング・オートメーション自体は決して新しい概念ではなく、その萌芽はステップメール(海外ではAutoResponderないしWorkflowと呼ばれます)から連綿と続く流れです。
もともとコンテンツを使ったマーケターの中では視野に入っていた物が、技術の発達やツールの開発によって、現実性を帯びてきて注目を浴びはじめたという印象です。
しかしステップメールのような手段とは異なり、これはもうシステムです。SFAを導入する・CRMを導入すると同じかそれ以上に、企業にとって負荷がかかる事です。
決して簡単に行えると思う物ではないです。
繰り返しになりますが、Webマーケティングを今現在意識して行っていない場合はまずは「アンオートメイテッド・マーケティング」に着手することをお勧めします。コンテンツを中心とした、ですね。
それにこなれて、社内の意識や習熟レベル、受け入れ体制が整ってきたときにはじめて、効率化や新たなアプローチのために導入検討を行った方が良いです。
マーケティングオートメーションは、まだまだこれから変化し、いろいろなセリングメッセージとともにメディアに登場すると思います。その際は、自社でやるタイミングなのかそうでないのか、パートナーを得られるのかどうかなど、やや悲観的に考えた上で、決めることをお勧めします。
また、大前提として、コンテンツを作って公開し反応を得ることをまず第一歩として行うことをお勧めします。私もよく代筆・添削・ワークシート作り・効果計測などお手伝いしている部分ですので、お困りでしたら、お気軽にご相談下さい。
中小企業・小規模事業者の方々に向けて、ウェブの活用やホームページの戦略などについてWebコンサルティング、施策代行実施などを行っている、株式会社ラウンドナップ代表取締役の中山陽平です。中小企業のWeb活用をサポートし、そこからの反響獲得を実現させています。→プロフィール詳細はこちらから