米D.C.連邦地裁が、Googleを巡る独占禁止法訴訟についての判決文「Memorandum Opinion」を公開しました。
文書番号は1436。主な内容は、検索・Chromeなどの配布に関する排他的な契約を禁止すること、Chromeの分割は必要ないという判断、検索インデックスやユーザーインタラクションのデータを一定範囲で共有する義務を課すこと。
一次資料と言えるでしょう。
出典:United States v. Google LLC Memorandum Opinion (Document 1436)
これだけで「ああだこうだ」という話ではないのですが、初出の用語などもあるので、自らのメモも兼ねてまとめておきます。
SEOやWeb運用の現場では,薄々分かっていたこと…ではあるのですが、改めて示されたと言うことで、諸処に使いやすい情報かなと思います。
判決文からの重要ポイント
今回公開された判決文のポイントは、
- Googleが具体的にどのようなデータをどんな目的で使い、検索エンジンや生成AIにどのように組み込んでいるかを分かる
- Googleが検索結果の評価にユーザー行動(クリック、滞在時間、直帰など)を広範囲に活用していることが示されている
- 利用→行動ログ→信号改良→ランキング精度向上という流れが重要だと分かる
- “クリック率だけを上げる”短絡的施策は、満足度が伴わなければマイナスの影響が大きいリスクがあるのでは
検索エンジンからの集客においては、クリック率や滞在だけでなく「タスク完了感」の設計(情報到達の短径化、内部導線、FAQ・ステップUI)をより重視すべきと言えるかなと思います。
Google社内で使われているアルゴリズムやプロジェクトの内部コードネームが多数記載されているのもうれしいですね、説明するのに分かりやすくなります。名前が分かったから何だという話でもありますが、共通言語が出来るとわかりやすいのは良いことかなと思います。
今回の判決文から押さえるべき2つのポイント
- ユーザー行動データの重要性が明確に
クロール優先度、インデックスの鮮度管理、ランキング調整、そしてプロダクト評価、Googleが検索エンジンの多くのプロセスでユーザー行動データを継続的に活用していることが判決文で明らかになりました。これは検索品質の向上を支える重要な要素となっています - Google内部のコードネームが多数公開され、理解が深まる
Navboost、GLUE、RankEmbed、FastSearch、MAGITなど、これまで不明確だったGoogle社内での呼称や各アルゴリズムの役割が判決文公開によって整理されました。これにより、検索と生成AIの関係性が理解しやすくなりました。
Googleの内部コードネームの詳細とその役割
判決文に書かれた情報をもとに各コードネームについてまとめました、備忘録も兼ねて。
判決文に記載のあるGoogle内部のコードネーム
Project Magi とは?
- 概要:生成AIをGoogle検索に統合する社内プロジェクト。様々な生成AIアイデアを取り入れ、最終的に「AI Overviews」機能として実現。
- 主な入力:検索結果とその関連シグナル
- 出力と挙動:SERPの上部に自然文による要点の提示や、AI Modeによるさらなる探求機能の提供
- 位置づけ:検索エンジンの新しい体験を支える基盤技術。
Magiに関しては、2023年にはすでに広報されており別に隠されていたわけではないです(それ以前はともかく)SGE(検索生成エクスペリエンス)が結果としてMagi計画の成果物とも言えるかと。
MAGITとは?
- 概要:Gemini基盤モデルを、検索用のAI要約に最適化するための後処理用モデル。検索データを使って調整。
- 主な入力:検索データと要約のための指示情報
- 出力と挙動:AI Overviewsの自然な文章を生成
- 特記事項:基盤モデルの事前学習にはクリックやクエリデータを使用していないと記載
GeminiはPaLM2やLaMDAの後継、そのGeminiをベースに、検索用に最適化されたモデルの1つがMAGITという感じですかね(Magi-Tなのかも)
AI Overviews と AI Mode(いわゆるGoogleAI検索)とは?
- 概要:AI Overviewsは検索結果上部で要約を提示する機能、AI Modeはさらなる情報探索を支援する機能。導入により検索満足度の向上を確認
- 入力と挙動:通常の検索結果と生成モデルを用いて要点を提示する、リンクや追加情報への導線を整備しますよ
- 補足情報:AI Overviewsの導入で直接のリンククリックが減る一方、参照されたリンクのクリック数が増える現象も
GLUE(super query log)とは?
- 概要:クエリ内容、端末情報、クリックやホバー、スクロール、スペル訂正など検索時の挙動全般を集約したログシステム。Navboostのデータも含まれる
- 用途:ランキング調整や挙動把握のための基礎データ
Navboost(NavBoost)とは?
- 概要:ユーザーのクリックやクエリの行動履歴を記録・統計化し、ランキングに活かす記憶型のランキングシステム。直近13ヶ月分のデータを使用
- 主な用途:ロングテール、ローカル、新規クエリなど、検索結果品質の底上げ
※NavBoostは名前含めかなり昔からあるものです。具体的には、2005年からGoogle検索に組み込まれている根幹システムで、検索クエリに対するユーザーのクリック・閲覧・離脱などの挙動を記録し、次回以降の同様検索の順位改善に反映していると言われています。
RankEmbed/RankEmbedBERTとは?
- 概要:深層学習を用いた上位ランキングシグナル。約70日間のログデータと品質評価者(Quality Raters)のスコアによる評価スコアを学習している
- 用途:意味的マッチングを向上させ、ロングテールクエリでの効果が高い
FastSearchとは?
- 概要:検索グラウンディング専用。RankEmbed由来のシグナルを使って、短く要約された順位付きウェブ結果を素早く返し、Geminiの回答生成に回す
- 用途:生成AIの回答生成におけるグラウンディング提供
Vertex AI(Search grounding)とは?
- 概要:サードパーティがGoogle検索や他データでグラウンディングできるクラウド機能。FastSearchの“結果そのもの”は渡さず“情報のみ”を返す
- 非対称性:GeminiはVertex経由で一部検索機能(ナレッジグラフ等)へのアクセスを受ける一方、そこは第三者には提供されない
GCC/Docjoinsとは?
- 概要:Geminiモデルの事前学習に使われる大規模ウェブコーパス(Google Common Corpus)とその管理システム(Docjoins)。Common Crawlより大規模。
Gemini Nano/AICoreとは?
- 概要:端末上で動作する小型LLM(Gemini Nano)と、その実行環境(AICore)。高速推論が特徴
- 用途:オンデバイス処理、プライバシー対応
ユーザー行動データ活用のポイント
Googleでの露出要因としてユーザー行動は想像以上に重要
検索品質を支える重要な要素として、ユーザー行動が位置付けられています。
- Googleはクリック/滞在/戻りなどの行動ログを長期保持(NavBoostは原則13か月)し、ランキングやインデックス運用、鮮度維持に反映
- 「良いクリック」「悪いクリック」「最後に最も長く閲覧されたクリック」などで満足度を推定し、次回の順位調整に活用
- リアルタイムな動き(ニュース等の急変時)などはGlue、文脈セグメントはSlicesが担う、と位置づけ
クリックの質、最後に長く閲覧された結果、滞在時間や戻り率、SERP上でのホバーやスクロールなどの微細な挙動データがGoogleのランキング調整や検索品質の判断材料となっています。
ユーザー行動は幅広く使われている
また、特にモバイル環境でのローカル検索、ロングテールクエリや新しいトピックに関する検索精度向上にも活用されています。
実務上の対策としては、直帰や短期離脱を減らし、ユーザーの回遊や滞在を増やすためのコンテンツ設計、構造化データの整備、要点を簡潔にまとめた情報提示等の方向だと思います。
なので、AI要約機能に採用されやすいコンテンツ構造やFAQの整備も重要なポイントとなります。この辺りはインスタントに提案されガチですが、一定の価値はありそうですね。
有名なPageRankは“既知の良質源からの距離という単一信号”として補助的に扱われているだけで、ユーザー行動データに比べると、重要度が低いのではと言う印象です。
まとめ
今回の判決文により、Googleがユーザー行動を中心に置いた検索エンジン設計をしていることが明確になりました。
SEOやWeb運用の現場では,薄々分かっていたこと…ではあるのですが、改めて示されたと言うことで、諸処に使いやすい情報かなと思います。ただ、名前が分かったから何だという話でもありますが、共通言語が出来るとわかりやすいのは良いことかなと思います。
中小企業・小規模事業者の方々に向けて、ウェブの活用やホームページの戦略などについてWebコンサルティング、施策代行実施などを行っている、株式会社ラウンドナップ代表取締役の中山陽平です。中小企業のWeb活用をサポートし、そこからの反響獲得を実現させています。→プロフィール詳細はこちらから