マーケティングの世界というのは、自分で決めない限り明確なゴールはありません。ラスボスもいませんし、何かをコンプリートできるわけではありません。
もっともっと良い成果をと、上を向いてひたすらに頭に汗をかいていくしかない世界ですね。これはマーケティングに限らずビジネスの世界全般に通じます。
だからこそマネジメントは重要であり、目標の適切な設定がチームのモチベーションや成果に大きな影響を与えるのですよね。
そして、特にこのWeb・ITと言う業界では、加えてもう1つ、怖いと感じる、陥りがちな「罠」があると感じています。
それは気づかず「目的達成のために、手段の最適化ばかり行ってしまう」ということです。
例えばどういうことか?
具体的に例を挙げると
- 顧客獲得単価を下げるために、広告アカウントの構造を隅々まで見直す
- 回遊率を上げるために、ディテール部分のUIについて、スプリットテストを繰り返す
- 検索結果表示画面(SERP)からのクリック率を上げるためにタイトルの微調整を繰り返す
- 改善サイクルのスピードを上げることにひたむきになる
これらは、単体で見ると問題のある行動ではありません。
ではなぜ怖いのか。
刃を研ぐことに集注すると陥る物
それは、目先の「テクニック」や「運用方法」など、【成果を上げるために使う武器】を研ぐことだけに集中してしまいがちだからです。
そうなってしまうと、いわゆる手段の目的化のような現象が起きてしまいます。何のためにやってるのか分からなくなります。
- 「これだけテストを繰り返しているんだから、きっとよくなるはず」
- 「アカウントの無駄を省いたのでよくなるはず」
- 「改善のスピードを上げたので、もっと目標達成までの時間は早まるはず」
確かにそうかもしれません。
実際そういう効果もでるでしょう。意味が無いなんて事はありません。大切なことです。
しかし、経験上感じるのは、突き詰めていこうとするときこそ、
「行っていることをより最適化するより、お客さんについてよりよく知る、あるいは、お客さん像を現状に即してアップデートした方がいい」
ケースが多いという事です。
事例:メルセデスベンツが考えていること
今回この記事を書くきっかけとなったのは、メルセデスベンツが顧客に対してどのような気持ちで接しているのかがにじみ出ている以下の記事を読んだからです。
→How User Segmentation Really Works in Content Marketing
https://contentmarketinginstitute.com/2016/06/segmentation-content-marketing/
CMIの記事です。
興味深い点として以下の部分があります。
- メルセデスが作ったオンラインコミュニティー「Generation Benz」は、同じような志向の人たちに接点を持たせる場所となり、親しくなれるソーシャルメディアである。ここからメルセデスは、自分たちの顧客の様々な趣向や実態を把握する
- 今のユーザーだけではなく、将来の顧客にも目を向けている。例えば、手ごろな値段の車(CLAなどですかね)を提供することにより、若い世代殿接点を確保し囲い込む。そうやって、将来の顧客の実態や趣向を先取りして理解し、今から手を打てるようにしている
将来の顧客に目を向けるというのは、日本で言うとディズニーのCMなどが代表的かと思います。メルセデスの場合は、コミュニティを使って、CM等の情報発信と言うより情報収集を行っているそうです。
コミュニティについては、日本ではあまり流行らないので、同じ事を行って同様の成果が出るかは難しいと思います。ただ、エッセンスが大事だなと。
話を戻しますと、コミュニティで明確になった買い手像に向かってのマーケティングをひたすらに行うというのがメルセデスのやり方です。
こういった活動により最近では
- 100万回以上の新しいCLAモデルのオンラインビューを獲得
- オンラインポータルの中で300,000以上の新しい車のモデルが作られた(そういう機能がある)
- 若い世代の層にもアプローチができた(このキャンペーンに興味を示した平均年齢は46歳で、前回のキャンペーンで興味を示した人の平均年齢よりも11歳下がった)
- MBUSA.com(メルセデスベンツのUSAサイト)へ過去最高のアクセス数
- 82%が新しいCLAモデルに好意的反応
といった成果を上げられています。
アクションを起こしてくれるということは、アプローチが正しかったと言えます。人を動かせればマーケティングはうまくいきますよね。
もしテクニック論に走っていたら
勝因はメルセデス・ベンツ社が、より顧客を知ることに軸足を置いて、それに合わせたマーケティング施策を打ったことがだと考えて良いかなと思います。
もし、ここでテクニカルに走っていたらどうなっていたか。
推論の域は出ませんが、恐らくサイトの多変量テストなどを繰り返して、細かい数値の違いを追い、HTMLメールの開封率を見ながら1人1人に対して興味関心を紐付け、オンラインアンケートを行って一部の人から、不確かな情報を得る…そしてそれを元に広告やサイトの修正を繰り返し、目標達成を目指すといったことを行っていたのではないでしょうか。
先ほどのフォーラムを通じて、ニーズを直に吸い出し、あるいはこちらから情報を出して判断基準などを受け入れてもらう。その上でお客さんの像に沿った施策をシンプルに出していく。そのやり方に比べると、どうにも効率が悪いように感じます。
しかし、現場は意外とこういうテクニック論に走りがちではないでしょうか。ここが「穴」ではないかと思うのです。
なぜ穴にはまるのか、2つの視点
それは1つは、今の施策の延長を行った方が色々な意味で楽だからだと思います。新しいことをやるより、今やってることを「もっと頑張ります」のほうが楽です。
もう1つは、加えて思うのは、お客さんについて直接知るということに対して、何か抵抗があるのではということです。
特にデータを見て考えることが好きな方は、そういう印象があります。データを基にして解析して答えを出すのが王道で有り、そのためのスキルを磨くべきだと。しかし本当の真実は常にお客さんの目の前にあります。
確かに、お客さんの声が手に入らないケースも多いので、類推や仮説検証のスキルは大事です。しかし、聞いた方が早いなら聞くことを躊躇する必要は無いです。相手について理解する方が、目標に早くつけることが多いです。
私自身も、手を動かすのが好きなので、常にテクニックに傾倒しないように、戒めるようにしています。
難しいですね。
しかし「手段を10%洗練させるより、お客さんを3%でもいいから深く知った方が成果は出る」というのが、私の今までの経験からは、胸を張って言えます。
…
我武者羅に手を動かしているのに、成果に繫がらない、そんなことがあったら、1度手を止めてお客さんのことを見つめてみて下さい。もしかしたら、今までの我武者羅なものが無駄になるかもしれません。しかし、結果に繫がる可能性は上がるかもしれません。
常に、鷹の目で。行き詰まった際は、そんなことも考えてみてはいかがでしょうか。
この内容がご参考になれば幸いです。
中小企業・小規模事業者の方々に向けて、ウェブの活用やホームページの戦略などについてWebコンサルティング、施策代行実施などを行っている、株式会社ラウンドナップ代表取締役の中山陽平です。中小企業のWeb活用をサポートし、そこからの反響獲得を実現させています。→プロフィール詳細はこちらから