ステルスマーケティング規制はどう変わったか: 口コミ偽装、SNS投稿、2023年の景品表示法対応

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ステルスマーケティング規制はどう変わったか: 口コミ偽装、SNS投稿、2023年の景品表示法対応商品やサービスを紹介する投稿が、利用者の自発的な感想なのか、事業者から依頼された広告なのか。この違いは、情報を受け取る側としては非常に重要な問題かつ、判断の根幹ともいえる情報です。

広告だと分かっていれば、読み手は、表現に一定の誇張が含まれる可能性を考慮できます。一方、第三者の率直な口コミだと思えば、その内容をより強く信頼するかもしれません。

広告であることや事業者との関係を隠したまま、第三者の感想に見せて商品やサービスを宣伝する行為は、ステルスマーケティングと呼ばれます。

日本では2023年10月1日から、一般消費者が事業者の表示であることを判別するのが難しい表示が、景品表示法上の不当表示として規制されるようになりました。

ただし、ステルスマーケティングの問題が2023年に突然始まったわけではありません。口コミサイトへのやらせ投稿、ブログでの商品紹介、SNS上の有償投稿など、広告と第三者の感想との境界は、それ以前から繰り返し問題になっていました。

この記事では、2012年、2019年、2023年の出来事を時系列で見ながら、現在の規制内容と事業者が行うべき管理について説明します。

今回のテーマ

ステルスマーケティングは、単に投稿へ「PR」と書き忘れたという問題ではありません。

消費者がその情報を評価するために必要な、発信者と事業者との関係が隠されることが問題。

広告主、代理店、投稿者、口コミサイトなど、関係者が増えるほど、誰が表示内容を決めたのかが見えにくくなります。

そのため、規制内容を把握するときは、投稿者だけを見るのではなく、表示の決定に関与した事業者と、投稿が作られるまでの関係を確認する必要があります。

時期 主な出来事 問題になった点
2012年 口コミサイトへのやらせ書き込みが問題化 事業者や依頼先が一般利用者を装って評価を作ること
2019年 京都市からの委託によるSNS投稿が報道される 有償のPR投稿であることを、閲覧者が判別できたか
2022年 消費者庁の検討会が報告書を公表 自主規制だけでは対応がそろわず、法規制が不十分だったこと
2023年 景品表示法に基づく指定告示が施行 事業者の表示だと判別しにくい表示が不当表示として規制されたこと

2012年、口コミ偽装はどのように問題視されたか

歯科や美容分野の口コミサイトで報じられた事例

2012年1月、歯科や美容外科などの口コミサイトでも、業者によるやらせ書き込みが行われているとして問題になりました。

産経新聞の記事では、口コミ投稿を請け負う業者の存在や、事業者に有利な評価を一般利用者の投稿に見せる問題が取り上げられました。

口コミの読み手は、投稿者が実際に商品やサービスを利用し、その経験を基に書いていると考えます。その前提があるからこそ、事業者自身の広告とは異なる情報として口コミを参考にします。

事業者や依頼を受けた業者が一般利用者を装えば、読み手は広告を第三者の評価だと誤認する可能性があります。

専用規制の前にも、景品表示法上の問題になり得た

2023年の指定告示より前は、ステルスマーケティングであるという理由だけで、一律に景品表示法違反になる制度ではありませんでした。

しかし、2023年まで、口コミ偽装が何をしても許されていたわけではありません。

消費者庁は2011年に「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」を制定し、2012年5月に一部を改定しました。

同資料では、事業者が顧客を誘引するために、口コミを自ら掲載したり、第三者へ依頼して掲載させたりした場合を扱っています。その口コミによって、商品やサービスを実際よりも著しく優良または有利だと消費者へ誤認させる場合は、景品表示法上の不当表示として問題になり得るとの説明です。

例えば、次のような行為が問題となる事例として挙げられています。

  • 店舗が一般利用者を装い、実際とは異なる商品内容を好意的な口コミとして投稿する
  • 口コミ投稿の代行業者へ依頼し、好意的な口コミを多数書き込ませて評価を変動させる
  • 広告主がブロガーへ宣伝記事を依頼し、十分な根拠のない効果を紹介させる

当時は、広告であることを隠した点だけでなく、口コミの内容によって優良誤認や有利誤認が生じるかが、景品表示法上の重要な論点でした。

2019年、SNS投稿と広告表示の境界が問題になった

京都市と漫才コンビによるSNS投稿

2019年10月、京都市が吉本興業へ委託したPR事業に関連し、漫才コンビ「ミキ」が行ったSNS投稿について報道がありました。

朝日新聞などの報道によると、京都市は、ふるさと納税や市営地下鉄などをPRする投稿4件を含む業務の対価として、吉本興業へ100万円を支払っていました。投稿には、京都市からの依頼に基づく広告であることが明確には示されていなかったと報じられています。

当時、京都市や吉本興業側は、投稿内容や契約全体の位置付けからステルスマーケティングには当たらないとの見解を示しました。一方で、報酬を伴う投稿であることを閲覧者が把握できたのかという点が議論になりました。

この事例は、金額の妥当性だけを問題にしたものではありません。広告主、仲介者、投稿者、閲覧者の関係を、投稿を見た人が判別できる状態だったかが重要な論点です。

立場 主な関与 表示上の論点
広告主・依頼主 投稿の目的や業務内容を決める 依頼に基づく情報であることを閲覧者が判別できるか
代理店・仲介者 企画、契約、投稿者との調整を行う 関係性の表示を契約や指示に含めているか
投稿者 自身のアカウントから情報を発信する 自主的な感想と依頼に基づく投稿を区別できるか
閲覧者 投稿を第三者の情報として受け取る 発信者と広告主との関係を知ったうえで評価できるか

法規制前にも業界の自主ルールは存在した

2023年の規制開始前にも、広告・口コミマーケティング業界では自主的なガイドラインが作られていました。

WOMマーケティング協議会の旧ガイドラインでは、マーケティング主体と情報発信者との関係性を明示する考え方が示されています。金銭、物品、サービスなどの提供者が代理店であっても、広告主と発信者との関係を示す必要があるとされていました。

また、単に「PR」と書けば十分とはせず、誰がマーケティング主体なのか、どのような便益を受けているのかを、情報の受け手が理解できる形で示す考え方を採っています。

動画では動画内、SNSでは文章が省略される前など、情報と近い位置で関係性を示すことも推奨されていました。つまり、2023年以前にも、実務上は「表示さえどこかにあればよい」という考え方ではなかったことが分かります。

2022年から2023年、専用の規制が整備された

消費者庁の検討会が整理した問題

消費者庁は2022年9月から、ステルスマーケティングに関する検討会を開催しました。同年12月に公表された報告書では、広告代理店、PR会社、プラットフォーム事業者、事業者団体などへのヒアリングや、消費者・インフルエンサーへの調査結果が整理されています。

検討資料で示された主な分類は、次の二類型です。

類型 内容
なりすまし型 事業者が自ら、または第三者へ依頼し、一般利用者などを装って情報を発信する 従業員や投稿代行業者が、一般客を装って高評価の口コミを書く
利益提供秘匿型 事業者が金銭や商品などの利益を提供しているにもかかわらず、その関係を隠す 報酬や商品提供を受けた投稿者が、自主的な感想のように紹介する

報告書は、広告であることを明示すると消費者が警戒するため、広告主側には、第三者の純粋な感想に見せたい動機が生まれると指摘しています。

一方で、ステルスマーケティングを行う事業者と、関係性を正直に示す事業者との間で、公平な競争が保たれにくくなります。こうした状態が続けば、個別の商品だけでなく、口コミやインターネット広告全体への信頼も損なわれます。

2023年10月1日から何が変わったか

消費者庁は2023年3月28日、景品表示法第5条第3号に基づき、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」を指定しました。指定告示は同年10月1日に施行されています。

これにより、次の二つに当てはまる表示は、景品表示法上の不当表示として規制対象になりました。

  1. 事業者が自己の供給する商品・サービスについて行う表示である
  2. 一般消費者が、事業者の表示であることを判別するのが難しい

外形上はインフルエンサーや一般利用者による投稿に見えても、事業者が表示内容の決定に関与していれば、「事業者の表示」に当たる可能性があります。

また、表示内容が商品を実際より著しく優良に見せているかどうかとは別に、広告であることを判別しにくい状態そのものが規制されるようになりました。この点が、従来の優良誤認・有利誤認を中心とした考え方から加わった重要な変化です。

この指定告示による景品表示法上の規制対象は、商品やサービスを供給し、表示内容の決定に関与した事業者です。一般には広告主が該当します。広告代理店や投稿者へ施策を任せても、広告主が表示内容の決定に関与していれば、その責任がなくなるわけではありません。

どこからが事業者の表示になるのか

投稿文の指示だけでなく、関係全体から判断される

事業者が投稿文を一字一句指定していなければ、必ず第三者の自主的な投稿になるわけではありません。

消費者庁のQ&Aでは、事業者が第三者へ明示的な指示をしていない場合でも、次の事情を総合的に考慮すると説明しています。

  • 事業者と投稿者との具体的なやり取り
  • 金銭、商品、サービスなどの対価の内容
  • 対価を提供した目的
  • 過去の取引関係
  • 今後も取引が続く可能性
  • 投稿内容へ事業者が関与できる関係だったか

特定のインフルエンサーを選んで商品を無償提供した場合も、提供しただけで一律に違反になるわけではありません。ただし、やり取りの内容、無償提供の目的、過去・将来の取引関係などによっては、事業者が表示内容の決定に関与したと判断される可能性があります。

口コミ特典と「星5」の指定は分けて考える

消費者庁のQ&Aでは、口コミ投稿を条件としてサービスを割引する場合についても説明しています。

投稿内容を指定せず、口コミを投稿することだけを条件とする場合は、通常、事業者が表示内容を決めたとはいえないという考え方です。

一方で、「星5」を付けることや、商品・サービスを推奨するコメントを書くことを条件にすれば、事業者が投稿内容を決めたと考えられます。その投稿が事業者の表示であることを明瞭にしなければ、告示に違反することになります。

この違いは、口コミ施策を行う事業者にとって重要です。口コミの件数を増やすことと、好意的な評価を条件にすることは同じではありません。

2023年10月より前の投稿も対象になり得る

指定告示が施行されたのは2023年10月1日です。しかし、それ以前に投稿された事業者の表示が施行後も公開され続けている場合、広告であることが明瞭でなければ、行政処分の対象になる可能性があります。

事業者は、新しい投稿だけでなく、過去に依頼した記事、SNS投稿、動画、口コミが現在も表示されているかを確認する必要があります。

「PR」と書けば必ず十分とは限らない

ステルスマーケティング対策として、「PR」「広告」「提供」などの表示が使われます。

しかし、文字列をどこかに置くだけで、常に十分な表示になるとは限りません。消費者庁の運用基準は、表示内容全体から、一般消費者が事業者の表示だと明瞭に認識できるかを見る考え方を採っています。

例えば、次のような表示では、広告であることが伝わらない可能性があります。

  • 長いハッシュタグ群の末尾にだけ「PR」と記載する
  • 「続きを読む」を開かなければ広告表示が見えない
  • 動画の説明欄にだけ書き、動画内では示さない
  • 背景と同化する小さな文字で表示する
  • 「応援」「コラボ」など、広告関係が分かりにくい表現だけを使う

重要なのは、広告主との関係を閲覧者が理解したうえで、投稿内容を評価できることです。媒体ごとの表示方法や画面上の見え方まで確認しましょう。

口コミを広告の武器として扱うと、何を失うのか

口コミは、利用前の期待と実体験との差を小さくする

口コミには集客への影響があります。高い評価や好意的な投稿が多ければ、商品や店舗を選ぶ理由になるでしょう。

ただし、口コミの価値を高評価の数だけで捉えると、本来の役割を見失います。

利用者が口コミを読む目的は、実際に商品を使った人や店舗を訪れた人の体験を通じて、自分が利用した後の状態を想像することです。口コミは、事業者が伝える商品説明だけでは分からない部分を補い、利用前の期待と実際の体験との差を小さくします。

良い口コミだけを増やし、期待を必要以上に高めれば、利用後に落差が生じるでしょう。その落差は、単なる不満だけでなく、「口コミも作られていたのではないか」という疑いにつながります。

口コミを制御しようとすると、客観性への期待を壊す

口コミを集客の武器として扱うと、事業者は次の方向へ進みやすくなります。

  • 好意的な感想を書きそうな人だけに投稿を依頼する
  • 低い評価を書かないように求める
  • 投稿文や評価点を指定する
  • 対価を提供した関係を目立たないようにする
  • 実際の体験より強い表現へ修正する

しかし、こうした管理を強めるほど、口コミが持っていた第三者情報としての価値は薄れます。

事業者が管理すべきなのは、好意的な評価の量ではありません。投稿の依頼方法、関係性の表示、事実と異なる内容への対応、利用者から寄せられた意見を商品やサービスの改善へつなげる仕組みです。

広告であることを示すのは、信頼を失わないためでもある

広告であることを明示すると、投稿の説得力が下がると感じる事業者もいるかもしれません。

しかし、広告であることを隠して得た説得力は、関係が明らかになったときに反転します。問題になった投稿だけでなく、過去の口コミ、公式サイトの説明、他の広告まで疑われる可能性があります。

関係性の開示は、法令を守るためだけの表示ではありません。情報の出所を説明し、閲覧者が自分で評価できる状態を保つためのものです。

広告主、代理店、投稿者が運用で確認したいこと

外注しても、最初の顧客接点への責任は移らない

インフルエンサーやアフィリエイター、広告代理店へ施策を任せると、広告主は個々の投稿から離れやすくなります。

しかし、消費者が最初に触れる投稿は、その企業や商品の印象を作ります。広告主が直接書いていなくても、消費者から見れば、そのブランドについて発信された情報です。

「投稿者が勝手に書いた」「代理店へ任せていた」という説明では、ブランドへの不信は解消されません。法令上の責任範囲とは別に、顧客との接点を誰へ預け、どのように管理していたかが問われます。

企画から公開後までを一つの運用にする

確認項目 実務上の対応
関係性の整理 報酬、商品提供、招待、割引、継続契約などを投稿前に記録する
表示方法 媒体ごとに、閲覧者が広告だと認識できる位置と表現を決める
依頼内容 評価点や推奨表現を条件にしていないかを確認する
公開前確認 事実関係、法令、関係性表示、リンク先を確認する
指示の記録 依頼文、修正指示、承認履歴を保存する
公開後確認 表示崩れ、投稿の編集、削除、転載などを確認する
過去投稿 契約終了後も公開されている投稿を確認し、必要な表示を追加する
社内投稿 従業員や関係者が自社商品について投稿する場合のルールを定める

投稿本数が多い場合は、担当者がすべてを記憶する運用では続きません。依頼時のテンプレート、公開前チェック、掲載URLの台帳、定期確認の担当者を決めておきましょう。

個別の投稿が景品表示法に違反するかどうかは、具体的な関係や表示方法によって判断されます。判断が難しい場合は、消費者庁のQ&Aや運用基準を確認し、必要に応じて専門家や消費者庁の相談窓口へ相談してください。

まとめ

日本では、2012年に口コミサイトへのやらせ書き込みが問題になり、2019年にはSNS上の有償投稿と広告表示の境界が議論されました。業界の自主ルールも作られていましたが、対応は事業者ごとに異なっていました。

2023年10月1日からは、事業者の表示であることを一般消費者が判別しにくい表示が、景品表示法上の不当表示として規制されています。

重要なのは、投稿に「PR」という文字を加えることだけではありません。誰が表示内容を決めたのか、どのような対価や関係があるのか、閲覧者が広告だと理解できる見せ方になっているかを確認する必要があります。

口コミは、広告より信じてもらえる便利な販売材料ではありません。利用者が自分に合う商品やサービスかを判断し、利用前の期待と実際の体験との差を小さくするための情報です。

広告主、代理店、投稿者は、企画、契約、表示、公開後の管理を分断せず、一つの運用として扱いましょう。それが法令対応だけでなく、口コミや広告への信頼を保つことにつながります。

参考資料

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