NPSとは?計算方法と経営指標として使う際の問題点

カスタマー経験

NPSとは?計算方法と経営指標として使う際の問題点NPS(ネット・プロモーター・スコア)をご存じでしょうか。

これは、顧客評価の為の指標の一つです。具体的には「この企業やサービスを、友人や同僚に勧める可能性はどのくらいありますか」と尋ね、0から10の11段階で回答を得る指標です。

質問数が少なく、計算方法も簡潔なため、顧客評価の推移を継続して追いやすい特徴があります。

経営指標としては、顧客評価の変化に気づく補助指標として使えます。ただし、NPSだけで企業の成長を予測したり、顧客が次に取る行動を説明したりすることはできません。NPSが高い企業ほど成長率も高いという関係が見つかっても、NPSを上げれば成長率が上がるという因果関係まで示したことにはなりません。

この記事では、NPSの計算方法を確認したうえで、業績との関係、調査方法による偏り、判断で押さえておきたい情報をまとめていきます。

NPSの計算方法は?

NPSでは、0から10までの回答を次の3群に分けます。

回答 区分 計算上の扱い
9、10 推奨者(Promoters) 推奨者の割合に含める
7、8 中立者(Passives) 回答者総数には含めるが、加減算はしない
0から6 批判者(Detractors) 批判者の割合に含める

計算式は次のとおりです。

NPS = 推奨者の割合 - 批判者の割合

例えば、100人から回答を得て、推奨者が38人、中立者が34人、批判者が28人だった場合、NPSは 38 - 28 = 10 です。取り得る値はマイナス100からプラス100までです。

NPSの10は「10%」ではありません。推奨者と批判者の構成比の差を表すスコアです。現在の計算方法と基本的な考え方は、Bain & Companyの解説でも確認できます。

中立者も分母を通じて影響する

中立者は、計算式で直接足したり引いたりしません。ただし、回答者総数には含まれます。中立者の人数が変われば、推奨者と批判者の構成比も変わります。

そのため、「中立者は計算に関係しない」とする説明は正確ではありません。また、9と10を推奨者、0から6を批判者とする区分は、回答を要約するための規則です。10と答えた人が必ず紹介し、6と答えた人が必ず離反するという意味ではありません。

NPSから分かるのは、評価が変化した可能性まで

同じ顧客層に、同じタイミングと方法で質問を続ければ、評価の推移を比較できます。商品改定、サポート体制の変更、料金改定などの実施日を記録しておけば、スコアが変わった時期と事業上の出来事を照らし合わせることもできます。

ただし、NPSの推移から分かるのは、評価に変化が起きた可能性までです。何が変化を生んだのかは、スコアだけでは確定できません。担当者は、自由記述、問い合わせ、苦情、解約理由、購入履歴、利用履歴などから理由を探ります。

以下は、外部研究の結論ではなく、当社がWeb解析や定例報告を支援してきた経験に基づく実務上の見解です。単一指標の上下を定例報告で読み上げても、誰が何を判断し、何を変えるのかが決まっていなければ改善にはつながりません。

担当者は、NPSを報告の結論ではなく、追加で調べる場所を見つけるために使う方が実務的です。スコアが下がった場合は、サイトの使いにくさ、商品への期待と実体験のずれ、問い合わせ対応の遅れなど、考えられる原因を自由記述や利用接点から確認します。

NPSと業績の関係はどこまで確認されているか

2003年の提案と現在のBainの説明

NPSの出発点として直接確認できる資料は、Frederick F. ReichheldがHarvard Business Reviewの2003年12月号に発表した「The One Number You Need to Grow」です。同記事は、顧客の推奨意向と企業成長の関係を示し、一つの質問を成長指標として使う考え方を提案しました。

NPSの説明では、2004年のSatmetrixのホワイトペーパーが挙げられることもあります。2003年の提唱記事と2004年のホワイトペーパーは別資料です。本稿では、後者の安定した公式公開URLと本文を確認できないため、その資料に由来するとされる調査対象、期間、相関係数などの具体的な数値は扱いません。

「NPSが12ポイント増加すると成長率が倍になる」という紹介も、施策によってNPSを12ポイント上げれば、同じ企業の成長率が必ず2倍になるという意味には読めません。企業間の比較、同一企業の時系列変化、施策の因果効果は、それぞれ別の検証を必要とします。

Bain & Companyは現在も、NPSを企業全体の成長や顧客生涯価値を予測する指標として説明しています。また、点数だけでなく、その点数を付けた理由を聞き、現場の改善につなげる運用を重視しています。

これは、NPSを提唱し、運用する側の説明です。指標の目的や運用思想を理解する資料としては有用ですが、業績との関係を評価するときは、独立した研究と分けて読みます。

独立研究では、明確な優位性を確認できない結果もある

Keininghamほかによる2007年の「A Longitudinal Examination of Net Promoter and Firm Revenue Growth」は、21社、1万5,500件を超えるインタビューを含むデータを使い、NPS研究の分析を追試しました。その結果、NPSが他の顧客満足・ロイヤルティ指標より明確に優れるという主張を再現できなかったと報告しています。

この研究は、NPSと成長がすべての企業で無関係だと証明したものではありません。ただし、「NPSだけが企業成長を示す最良の指標である」という一般化には、独立研究から異論が出ています。

John G. Dawesによる「Net Promoter and Revenue Growth: An Examination Across Three Industries」は、米国の航空会社とスーパーマーケットについて、5年から11年のNPSと収益の推移を調べました。保険会社10社のデータも検討しています。論文全体の結論は、NPSを将来の収益成長の指標とはいえないというものです。

同論文は、公開されている長期NPSデータが限られ、対象企業数も大きくないことを限界として挙げています。この研究だけで、あらゆる業界や企業へ結論を広げることもできません。提唱する側の説明にも、独立研究の否定的な結果にも、それぞれ適用できる範囲があります。

相関を因果と勘違いしないことが大事

NPSと成長率が同時に高かったとしても、原因は一つとは限りません。

例えば、次の説明が考えられます。

  • 良い商品やサービスが、推奨意向と売上の両方を高めた
  • すでに成長している企業の投資余力が、顧客体験を改善した
  • ブランド認知、価格、出店、広告、競合状況など、別の要因が両方に影響した
  • NPSを測った時期と、成長率を計算した期間の前後関係が適切ではなかった
  • 高いNPSを付けやすい顧客だけが回答した

NPSの改善によって成長が生じたと判断するには、時間の順序、実施した施策、比較対象、ほかの要因を確認する必要があります。

スコアと業績が同時に動いたという事実だけでは、因果関係を示せません。疑似相関、中間の要素の存在なども含め、きちんとした検証が必要です。

調査対象と方法が変われば、スコアも変わる

同じ質問でも、誰に、いつ、どの方法で尋ねるかによって結果は変わります。購入直後の顧客、サポート利用後の顧客、契約更新前の顧客では、評価している体験が同じではありません。メール、Web画面、電話でも、回答しやすい人や回答時の状況が異なります。

回答しなかった顧客は、NPSに入りません。満足した人だけが回答した場合も、強い不満を持つ人だけが回答した場合も、回答者のスコアを顧客全体へそのまま広げることはできません。

調査担当者は、回答数だけでなく、配信数、回答率、回答者と非回答者の違いも確認します。時系列で比較する場合は、対象、質問文、配信方法、回答期間をそろえることが重要です。

国や文化による回答傾向にも注意する

田崎勝也・申知元による「日本人の回答バイアス レスポンス・スタイルの種別間・文化間比較」は、日米韓の回答傾向を比較しました。日本と韓国の参加者は、米国の参加者より中間選択肢を選びやすいと報告しています。

この研究は、NPSそのものを検証した研究ではありません。そのため、「日本ではNPSが必ず低くなる」と結論付ける根拠にはできません。

一方で、9と10だけを推奨者とする固定閾値を使い、国や文化をまたいで絶対値を比較する場合は、回答スタイルの違いを考慮する必要があります。企業間や国際間の順位だけを見るより、条件をそろえた自社内の推移を優先する方が、変化を解釈しやすくなります。

その価値の判断の際はNPS単一指標ではなく、ほかの情報と組み合わせる

NPSが示すのは、推奨意向という一つの角度から見た顧客評価です。事業上の問いに答えるには、問いに合う情報を組み合わせます。

知りたいこと 組み合わせる情報 NPSだけでは言えないこと
顧客が継続しているか 契約継続率、解約率、再購入率 推奨意向と実際の継続行動が一致するとは限らない
何に不満があるか 自由記述、苦情、解約理由、問い合わせ内容 スコアだけでは改善対象を特定できない
Web上でどこにつまずいたか フォーム完了率、離脱箇所、サイト内検索語、サポート履歴 NPSは画面や導線の具体的な問題を示さない
施策に効果があったか 実施前後の行動指標、比較対象、実施履歴 NPSの変化だけでは施策の因果効果を証明できない
顧客ごとの価値が変わったか 購入頻度、利用期間、売上、粗利、サポート費用 推奨意向だけでは収益や費用を算出できない

自由記述と行動データを結び付ける場合は、必要以上に個人を追跡しないことも重要です。何を判断するために、どの情報を、どの期間保持するのかを先に決めます。集計で答えられる問いに、個人単位の履歴を使う必要はありません。

NPSを改善へつなげるには?押さえるべきポイント

ここからは、当社のWeb解析・改善支援から得た運用上の判断基準です。NPSと業績の関係を検証した外部研究の結果ではありません。

NPSを高めること自体を目的にしない

当社のWeb解析支援では、計測項目を決める前に、誰のどの判断を支え、現場の何を変えるのかを確認します。NPSも同じです。

「次回までに5ポイント上げる」という目標だけでは、更新前の説明を見直すのか、初回利用時の案内を変えるのか、問い合わせ対応を改善するのかを決められません。調査対象や配信時点が変われば、顧客体験を改善していなくてもスコアは動きます。

先に決めるべきなのは、改善したい顧客体験と、改善後に確認する行動です。例えば、契約更新前の不安を減らすことが目的なら、担当者はNPSに加えて、更新率、解約理由、更新前の問い合わせ内容も確認します。

指標は、目標そのものではありません。改善が狙いどおり進んだかを確かめる手段です。

数値と顧客の声を照合する

当社の実務では、数値だけで結論を出さず、問い合わせ、商談、受注・失注理由、既存顧客の声と照らし合わせます。一方で、印象の強い一人の声を、顧客全体の傾向として扱うこともしません。

数値は、変化がどの程度広がっているかを確かめる材料です。具体的な声は、変化の理由について仮説を立てる材料です。それぞれの役割を分けて使います。

NPSを改善へ使う場合は、次の順序で記録すると、スコアと行動を結び付けやすくなります。

  1. 同じ対象、質問文、配信方法で測り、変化が起きた接点や顧客層を確認する
  2. 自由記述、問い合わせ、苦情、解約理由から、変化の理由について仮説を作る
  3. 一度に多くの要素を変えず、改善する顧客体験と担当者を決める
  4. 変更日、変更内容、成功条件、NPS以外に見る行動、現場の反応を記録する
  5. 一定期間後に数値と具体的な声を再確認し、食い違う場合は結論を保留して理由を調べる

この記録を続けると、NPSの上下を報告して終わらず、何を試し、顧客の反応がどう変わったかを確認できます。改善が進まなかった場合も、その記録を次の仮説に使えます。

NPSを運用する前に決めること

調査を始める前に、少なくとも次の項目を決めてください。

  1. 調査対象と、購入後・利用後・更新前などの調査時点
  2. 質問文、配信方法、回答期間
  3. 配信数、回答数、回答率、非回答者の扱い
  4. 全社、商品、顧客層、接点などの集計単位
  5. 自由記述で尋ねる内容と、担当者が読む手順
  6. 継続率、解約率、再購入率、Web行動など、一緒に見る指標
  7. 商品改定、料金変更、サポート変更などの実施履歴
  8. スコアが変わったときに追加で調べる条件
  9. 回答データの閲覧権限、保持期間、削除方法

目標値を置く場合も、「業界平均を上回る」だけでは担当者の行動を決められません。どの顧客体験を改善し、その変化をNPS以外のどの行動で確かめるのかまで決めます。

まとめ

NPSは、顧客評価の変化に気づくための補助指標です。同じ条件で継続して測れば、自社内の推移を比較できます。

一方で、NPSだけでは、変化の理由、施策の因果効果、将来の収益成長を判断できません。提唱する側の説明と独立研究の結果には、それぞれ適用できる範囲があります。

調査対象、調査時点、配信方法、非回答者、国や文化による回答傾向もスコアへ影響します。経営判断では、継続率、解約率、再購入率、自由記述、問い合わせ、Web上の行動と組み合わせてください。

NPSを高めること自体を目的にせず、改善したい顧客体験と確認する行動を先に決める。その使い方であれば、NPSは顧客理解の入口として役立ちます。

参考資料

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