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このページで分かること
ラウンドナップWebコンサルティングの中山陽平です。
このページでは、「ストーリーテリングって大事らしいけど、実際Webでどう活かせばいいのか」「自分語りっぽくなって滑るのが怖い」というモヤモヤに対して、現実的な落としどころを整理しています。
- ストーリーテリングが“魔法の杖”ではない理由と、そもそも人によって前提がバラバラな問題
- ストーリーがハマるコンテンツ/ハマらないコンテンツの見分け方
(目安は「現在・過去・未来」にニーズがあるかどうか) - よくある失敗パターン、特にトップページが「自分語り」で埋まってしまう流れ
- 本格的なストーリーテリングが想像以上に難しい理由と、その代わりにできる現実的な方法
- 動画・お客様の声・現場の見せ方など、ストーリーの効果を別ルートで実現するアイデア
- 「ストーリーは人間にしか作れない」は本当か?という話と、AI時代に企業側が本当に集中すべきポイント
ざっくり言うと、「ストーリーテリングを目的にしない」「伝えたい“にじみ出る良さ”を、もっと楽な手段で届けよう」という話です。
ストーリーテリングは魔法の杖ではない
そもそも「ストーリーテリング」のイメージが人によって違う
最近、「ストーリーテリングが大事」「物語性をコンテンツに入れよう」という話をよく見かけるでしょう。ここでまず押さえておきたいのは、「ストーリーテリング」という言葉で何を指しているかが、人によってかなり違うという点です。
例えば、こんな幅があります。
- 文章の中に、少しだけ背景やエピソードを織り込む程度のライトなストーリー
- TEDトークのように、壇上で身振り手振りを交えながら語る劇場型のストーリーテリング
海外発の情報では特に、この「TEDトーク級」を前提にしたストーリー論が多く、その上で「Webでもこうしよう」と落とし込んでいるケースがあります。これは日本の中小企業・小規模事業者にそのまま当てはめるには、かなりハードルが高いでしょう。
ですから、どこかの「ストーリーテリングが大事」という記事や動画を参考にするときは、
- これは自分たちにも現実的なやり方なのか
- それとも大規模なプレゼン前提の話なのか
を、まずは冷静に見極めた方が安全です。
すべてのコンテンツにストーリーを乗せる必要はない
もう一つ大事なのは、「じゃあ、これからはすべてのコンテンツにストーリーを入れた方がいいのか」というと、全然そんなことはないという点です。
ストーリーテリングがハマるコンテンツと、まったくハマらないコンテンツがはっきり分かれます。ハマらないところに無理にストーリーを乗せても、単に読みづらくなるだけです。
ストーリーがハマるコンテンツ/ハマらないコンテンツ
PCスペック・料金表・機能比較には、ほぼストーリーは要らない
分かりやすい例として、パソコンやスマホのスペック比較を考えてみます。
ユーザーが知りたいのは、主にこういうことです。
- 価格と性能のバランス(コスパ)が良いかどうか
- レビュー評価はどうか
- 自分の用途に向いているかどうか(ゲーム・動画編集・事務など)
このとき、
- なぜこのチップが何nmプロセスになったのか
- 競合との歴史的な競争の背景
といった物語的な背景は、よほど好きな人以外にはほとんど関係がありません。
スペックや比較情報のような「今どうなのか」だけ分かれば十分な情報に、無理にストーリーを乗せても、ユーザーのニーズとはズレてしまうでしょう。
会社の「現在・過去・未来」が気になる場面にはストーリーが効く
一方で、同じ「チップ」を題材にしても、
- そのメーカーがなぜそのチップを作ろうと思ったのか
- どんなビジョンで技術開発をしているのか
- どんな職場環境・文化の中でモノづくりをしているのか
といった話は、例えばこんな人にとっては気になる情報になります。
- その会社で働きたいと考えている人(採用・リクルート)
- 長く付き合う取引先として信頼できるか知りたい企業
こういう場面では、
- これまでどう歩んできたのか(過去)
- 今どんな状態なのか(現在)
- これからどこを目指しているのか(未来)
という時間軸のストーリーがあると、会社への理解や信頼につながりやすくなります。
お客様の「ビフォー・アフター」とは相性抜群
もう一つ、ストーリーが非常によくハマるのが、
- 事例・お客様の声・サクセスストーリー
と呼ばれるコンテンツです。
ここでユーザーが知りたいのは、
- サービス導入前にどんな課題を抱えていたのか(過去)
- なぜこの会社・このサービスにたどり着いたのか(現在へ至る流れ)
- 導入後にどう変わったのか、今どうなっているのか(現在・未来)
といったビフォー・アフター+間のプロセスです。
アンケートの一問一答だけではなく、
- もともとこういうことで困っていた
- こんなきっかけでこの会社を知った
- 導入時にはこういう不安があったが、こういう対応で解消された
- 今はこう変わっている/今後こうしていきたい
という小さな物語になると、読む人は自分の状況に重ね合わせやすくなり、グッと印象に残るようになります。
目安は「現在・過去・未来にニーズがあるか」
ストーリーテリングを使うかどうか迷ったときは、
- そのテーマについて、現在だけでなく過去や未来にも関心があるか
- タイムラインが見えた方が、ユーザーにとって判断しやすいか
という視点で考えると判断しやすくなります。
過去や未来にあまりニーズがなく、「今どうなのか」だけ分かればいいテーマであれば、無理にストーリーを乗せる必要はありません。
失敗パターン:ストーリーテリングが「自分語り」になるとき
ストーリーテリングを独学で頑張ろうとすると、よく起きる失敗パターンがあります。それが、「自分語りホームページ」になってしまうケースです。
特にトップページなどで、こんな構成を見かけたことがあるでしょう。
- 我々はこういう想いで立ち上がった会社で…
- 昔こんな苦労があって…
- 今はこういうキャッチコピーで活動しています…
もちろん、そういう話が必要なタイミングもあります。ただ、多くの訪問者はトップページに来た段階では、
- どんなサービスなのか
- 他と何が違うのか
- 自分に関係があるのか
をまず知りたいだけです。そこでいきなり濃厚な自社の物語をぶつけられると、
- 「今それはいいから、サービスの話をしてほしい」
という気持ちになり、読むのをやめるか、別ページに飛ぶか、そのまま離脱するでしょう。
大事なのは、
- ストーリーを使う場所は慎重に選ぶこと
- 使わない方がいい場所もたくさんあること
を意識しておくことです。
本格的なストーリーテリングは、想像以上に難しい
ダイレクトマーケティングの世界でも「できる人はごく一部」だった
ストーリーテリングは、きちんとやろうとするとかなり難易度が高いスキルです。
ダイレクトマーケティングの世界では、ニュースレターやDM(ダイレクトメール)に、物語や想いを織り込んだ手紙を書くことで、高額商品を販売する手法がありました。20年ほど前には、その成功事例をまとめた本もたくさん出ていました。
ただ、ああいった「読ませるストーリーで売る」ことができた人は、当時からかなり限られていました。今でも名前が挙がるような、有名どころの方々です。
それくらい、
- 構成を考える
- 読者の感情の流れを組み立てる
- 読み切ってもらう
というのは難しい仕事です。いきなり「ストーリーテリングを極めよう」と構えると、ほとんどのケースで挫折か空回りになるでしょう。
ではどうするか:効果から逆算して考える
ストーリーの本当の強みは「感情」と「記憶」に届くこと
そもそも、なぜストーリーテリングが効果的だと言われるのでしょうか。
テレビ番組、映画、舞台、ドキュメンタリー…。ストーリーがあるものは、
- 感情に訴えかけやすい
- 後から思い出しやすい
という特徴があります。
記憶術の世界でも、覚えたい情報を無理やり物語にして覚える方法がありますし、歴史を学ぶときに漫画「日本の歴史」から入った方が頭に残りやすい、というのもよくある話でしょう。源氏物語を覚えるために漫画『あさきゆめみし』を読んだ、という方も少なくないはずです。
つまりストーリーテリングの強みは、
- 数字やスペックに出ないニュアンスを伝えやすい
- 人の心に残りやすい
という点です。
「にじみ出る良さ」をどう見せるか、から考える
ここまで整理すると、本来考えるべきなのは、
- ストーリーテリングをやるかどうか
ではなく、
- 自社のサービスや商品の「にじみ出る良さ」をどう見せたら伝わりやすいか
です。
例えば、
- どんなに良いサービスでも、文章だけでは伝わりにくい部分がある
- 「丁寧に対応します」と書くだけでは、正直ほとんど伝わらない
こういうときに、
- わざわざ難しいストーリーを組み立てるのではなく
- もっと素直な手段で「伝わり方」を工夫する
という発想を持った方が現実的です。
実践アイデア:ストーリーの代わりにできること
1. 動画で「現場の空気」を見せる
例えば、塗装店のように人が現場で動く仕事を考えてみましょう。
「親切丁寧に施工します」「ご近所に配慮します」と文字で書くだけでは、読み手にはなかなか伝わりません。
そこで、
- 朝の挨拶の様子
- 近隣への配慮(挨拶・養生など)
- 作業後の片付けの様子
などを、簡単な動画で撮っておきます。それだけでも、
- 本当に挨拶している
- 本当に現場をきれいにしている
ということが一目で伝わるようになります。
これは、ストーリーを練り込んだ映像作品ではありませんが、文字だけでは伝えきれない「にじみ出る良さ」を、かなりの部分カバーできる方法です。
2. 自分で語らず、お客様に語ってもらう
もう一つの方法は、
- 自分でストーリーを語ろうとせず、同じ状況のお客様に語ってもらう
ことです。
お客様インタビューや動画の「お客様の声」で、
- 導入前にどんなことで困っていたか
- なぜこの会社を選んだのか
- 導入後、何がどう変わったか
を話してもらえば、それだけで自然なストーリーになります。しかも、こちらが作った物語ではなく、実際の体験に基づいた話なので、伝わり方が違います。
3. テキストは「最小限のストーリー」だけ添える
テキストで頑張りすぎると、どうしてもストーリーが長くなり、読む側の負担が増えます。
そこで、文章の役割は、
- 必要なスペック・条件・料金などの事実情報
- ごく簡単な「現在・過去・未来」の骨組み
くらいに絞っておく、という考え方もあります。
ストーリーテリングを大上段から構えず、
- 動画やお客様の声など、他の手段で補いながら
- テキストは「足りないところを埋める」役割に徹する
くらいの方が、現場ではうまく回りやすいでしょう。
ストーリーテリングとAI:これから起きる変化
「ストーリーは人間にしか作れない」はポジショントークに近い
ストーリーテリングの話になると、
- ストーリーは人間にしか作れない
- AIにはストーリーは作れない
という主張もよく見かけるでしょう。
正直なところ、これはかなりポジショントーク寄りです。
実際、ChatGPTのようなツールに「昔話を作ってください」と頼めば、ストーリーらしいものは普通に返ってきます。3の時代からすでにそうでしたし、今はもっと自然に作れるようになっています。
人間の脳も、突き詰めれば電気信号のやり取りで動いています。そう考えると、ストーリーの「形」やパターンだけで見れば、AIがそれを再現できない理由はあまりないでしょう。
そのうち「どの見せ方がいいか」もAIが選ぶようになる
さらに先を見ると、
- カチッとしたスペック説明で返す方がいいのか
- ストーリー調で返した方がいいのか
- 動画や画像で返した方がいいのか
といった見せ方そのものも、AIが最適な形を選ぶようになっていくでしょう。
AI検索は、本質的に究極のパーソナライズが可能な検索方法です。質問する人の状況や好み、これまでのやりとりなどを踏まえて、
- 今はストーリーで説明した方が伝わりやすい
- 今は箇条書きで手早く返した方がよい
といった判断は、AI側の得意分野になっていくでしょう。
だからこそ、人間側がやるべきことは「中身」と「情報の整理」
こういう未来を前提にすると、人間側が本気で取り組むべきところが見えてきます。
- そもそものサービスや商品、会社自体を洗練させること
- その良さがAIにも人にも伝わるように、情報を整理しておくこと
つまり、
- 会社やスタッフの中身を磨く
- その情報を、ホームページなどできちんと構造化して公開する
- 各種AI・言語モデルに汲み取ってもらいやすい形で維持する
という2つが、企業側の仕事になっていくでしょう。
ホームページは、
- フロントで「見せる場所」
であると同時に、
- 会社の情報を集めたデータベース
という役割がどんどん強くなっていくはずです。
余談:人間が返すことの価値と、仕事の変化について
少し雑談寄りになりますが、今、私自身もコンサルティングの仕事の中で、
- 自分の過去のコンテンツやノウハウを読み込ませたチャットボット
のようなものを試しています。私一人がやってきた仕事なので、ボットでもそれなりに一貫性のある回答が返ってきます。
そうすると、
- 「これはこれで、かなり良いのではないか」
- 「人間が直接返すことの価値はどこにあるのか」
ということも考えざるを得ません。
間違いなく、
- なくなる仕事も出てくる
- 新しく生まれる仕事も出てくる
でしょう。特に、「いろいろなものを組み合わせて新しい価値を作る仕事」には、かなり大きな可能性があるはずです。
情報系のビジネスは、商品の構成や売り方を含めて、大きく変わっていくでしょう。その中で、どこに人間ならではの価値を出していくのかは、これから考え続けるテーマです。
まとめ:「ストーリーテリング」を目的にしない
最後に、今回のポイントを整理します。
- 「ストーリーテリング」は魔法の杖ではなく、ハマる場面とハマらない場面がはっきり分かれる。
- ストーリーが効きやすいのは、会社やお客様の「現在・過去・未来」にニーズがあるコンテンツ(会社案内・採用・事例・サクセスストーリーなど)。
- トップページなどで無理にストーリーを入れると、単なる「自分語り」になりやすいので要注意。
- 本格的なストーリーテリングは、ダイレクトマーケティングの世界でもごく一部の人しかできなかった高度なスキルで、独学でいきなりやるとほぼ失敗する。
- 大事なのは「ストーリーテリングそのもの」ではなく、感情や記憶に残る伝え方をどう実現するかであり、その手段として動画・お客様の声・現場の見せ方など、もっと現実的な選択肢がたくさんある。
- 「ストーリーは人間にしか作れない」はポジショントークに近く、いずれAIが見せ方も含めて最適化するようになっていく。
- だからこそ、企業側が集中すべきなのは、サービス・会社の中身を磨くことと、それをAIにも人にも伝わる形で整理して公開することである。
「ストーリーテリングの時代だから、何か物語を書かなきゃ」と焦る必要はありません。
「何をどう伝えたいか」から逆算して、もっと楽で確実な方法がないかを一緒に考えていけば十分です。
FAQ:Webでのストーリーテリングについてよくある疑問
- Q1. これからのWebコンテンツは、全部ストーリーテリングにした方がいいのでしょうか?
- 全部をストーリー仕立てにする必要はありません。むしろ、スペックや料金など「今どうなのか」だけ分かればよい情報には、ストーリーはあまり向きません。会社の背景やビジョン、事例・お客様の声のように、現在・過去・未来の流れがあると分かりやすいテーマにだけ、ストーリーを使う方が現実的です。
- Q2. ストーリーテリングが向いているコンテンツかどうかは、どう見分ければよいですか?
- 一つの目安は、「そのテーマについて、現在だけでなく過去や未来にも関心があるかどうか」です。会社の成り立ちや今後のロードマップ、導入前後のビフォー・アフターなどは、時間軸の話があると理解しやすくなります。一方で、単なるスペック比較や価格表のような情報は、現在の事実が分かれば十分なので、ストーリーは必須ではありません。
- Q3. むずかしいストーリー構成が苦手です。それでも「伝わるコンテンツ」を作るにはどうしたらいいですか?
- ストーリーテリングを大上段に構えなくても、伝わり方を工夫する方法はたくさんあります。例えば、現場の様子を動画で撮って見せる、同じ状況のお客様に事例として語ってもらう、写真と短いコメントでビフォー・アフターを見せるなどです。まずは「文字では伝わりにくい部分をどう補うか」という視点で、手を動かしやすい方法から始めると良いでしょう。
- Q4. トップページに自社のストーリーをしっかり書いているのですが、これも「自分語り」になってしまいますか?
- トップページにストーリーがあること自体が悪いわけではありません。ただ、多くの訪問者は最初に「どんなサービスか」「他と何が違うか」を知りたいので、最初から長い自社の歴史や想いが続くと、読まずに離脱される可能性が高くなります。トップページではまずサービスの全体像を簡潔に見せ、会社のストーリーは「会社案内」や「代表メッセージ」「採用情報」など、ストーリーを求める人が自分から見に行く場所にまとめておく方が、バランスは取りやすいでしょう。
- Q5. AIがストーリーも作れる時代に、ストーリーテリングを学ぶ意味はありますか?
- AIはすでに、それらしいストーリーを作ることができますし、今後は「どの見せ方がベストか」を選ぶところまで担うようになるでしょう。その中で、人間側が重視すべきなのは、ストーリーの書き方そのものよりも、サービスや会社の中身を磨き、「どう伝えてほしいか」の材料をきちんと用意することです。ストーリーテリングは「必須スキル」ではなく、「必要な場面で補助的に使えたら便利」くらいの位置づけで捉えておくと、バランスが取りやすくなります。
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