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データ活用できない会社の本当の原因は「個人のスキル不足」ではない
AIや業務効率化、さまざまなシステム活用の話題が飛び交う昨今、それらをうまく取り入れている会社と、どうにも手が出せない会社がきれいに分かれてきている印象があります。
成功事例として持ち上げられるように、スムーズに進んでいるところ、そこそこ実現できている実感があるところもある。
一方で、現場としても経営層としても「どうも活用できない」と感じている会社さんも少なくない印象です。
どちらの会社さんからもご相談をいただく中で、両者の違いや課題について考えることが増えました。そこで今回は「どうすればデータを元に動ける組織になれるのか」というテーマで、現場で感じていることをお伝えします。
「リテラシーが低い」「意識が足りない」で片付けてはいけない
データ活用というと、どうしても算数や数学的なイメージがつきまとい、うまくいかない原因を「リテラシー不足」「意識が低い」「主体性がない」といった個人の課題に集約しがちに感じます。
しかし、現場に入ってみると、そういうところ以前の課題が横たわっていることが実に多いのです。
ざっくり言えば、データをうまく使えない組織というのは、スキルがないから動けないのではなく、「データを元にして動くと損をする環境」に人々が置かれてきた結果、そうなっているケースがほとんどです。
つまり、個人の能力ではなく環境が課題のケースが多い、少なくとも原因に占める割合としては大きい。
もしこれがシンプルに個人の課題であれば、話は簡単です。
「このデータはこういうふうに読むと、こういうことが分かるんですよ」と伝えるだけで、どんどん変わっていきます。
組織として研修を行えば、翌日から少しずつデータを見てくれるようになったり、「勉強会をもう一回やりましょう」という声が自然と上がったりする。個人がボトルネックであれば、やり方をお伝えするだけでちゃんと前に進んでいく。
しかし、課題が環境にある場合は違います。
データが使えるということは分かっている。でも、それを活かせる「空気」がない。やりたいと思っていてもやれない。そういう状態が生まれているのです。
組織的な要因が疑われるサイン
では、環境に課題があるケースにはどんな特徴があるのか。
私がよく目にするのは、次のようなもの
- 課題提起した人が、そのまま実行責任を押し付けられる
- 提案すると、なぜか厳しく詰められたり「言ったからには証明してくれよ」という空気になる
- 一番頑張って提案してくれている人が、一番元気がない・疲れている
- 会議では売上などの数字は話題に出るが、対策を練る段階になると急に「勢い」や定性的な話に流れる
- 会議が終わって部屋を出た途端に、みんなが一斉に本音を話し始める
こうした状態にある組織では、過去にデータを根拠に動こうとした人が、ポジティブなフィードバックではなく
「そんなデータで何が分かるんだよ」「否定するなら説明責任を取れよ」と一方的に押し付けられてきた経験があることが多いのです。
結果として、今のやり方とは異なる判断軸を持ち込んだときに、それを受け入れられない体質ができあがってしまいます。
個人個人のスキルを上げたところで解決しない
そういう状況なら、個人個人のスキルを上げたところで解決しません。
むしろ、やる気やモチベーションのある人から先にやめていってしまうという深刻な事態を招きかねません。
管理者としてこの状況を変えたいのであれば、まずは組織の空気そのものを変えることが出発点です。
影響力のある立場の方ほど率先して行動し、たとえ失敗しても「うちは変わるんだ」という姿勢を見せることが重要です。
データ活用を阻む「4つの壁」
データ活用がうまくいかない原因は大きく4つに分類できると私は考えています。
壁1:能力・スキルの課題
1つ目は、シンプルに今までやってこなかったという経験値の課題です。
データの見方が分からない、解釈の仕方が分からない、そこから何ができるのか行動に結びつかない。
やったことがなければ最初うまくいかないのは当たり前のこと。実際、仕事というのは何でもやってみて覚えることの方が多いもの。
このケースであれば、雑に言えば「教えればどうにでもなります」。
むしろ現場の方々は、定性的・定量的な知識を豊富に持っています。私のような外部の人間がとやかく言うよりも、はるかに生々しく良いアウトプットを出してくれることも珍しくありません。
壁2:組織の構造と仕組みの課題
2つ目は、組織の構造に起因する課題です。
「言い出した人がやる」という暗黙のルールが存在していたり、データに基づいて誰がどう動くのかという役割分担が曖昧だったりします。やろうと思っても権限がないというケースも少なくありません。
ここでいう「権限がない」とは、会社の制度上の話だけではありません。むしろ多いのは「空気的な」権限の欠如です。
提案したことに対して「いいね、やってみなよ」というポジティブな後押しがないのはつらいです。
評価制度も、自分で発案して行動し、成果を出したことがきちんと認められる仕組みになっていない。動きたいのに、動ける心理状態に自然となれない構造が出来上がっているのです。
壁3:心理的な抵抗
3つ目は、個人の心理的な課題です。
データを活用すると、これまで「こうすればいい」と信じてきたやり方が覆される場面がどうしても出てきます。
そのとき、「否定されたくない」「今までの自分が失敗だったと思われたくない」という感情が湧き上がり、過去の判断と自分の存在価値を結びつけてしまうことがあります。
これは性格や考え方の癖に根ざす部分が大きいため、一朝一夕には解決できません。
構造の課題をきちんと整えた上で、実際に動いてもらい、それを認めるというステップを踏んでいく必要があります。
大切なのは、「今までのものを否定するためにデータを使う」のではなく、「今までの土台があった上で、さらに良くするために使えるものなんだ」というメッセージをトップの人間がしっかり発信し続けることではないかな、と思うところです。
壁4:あらさがし文化
そして4つ目、これが最も根深い課題だと感じていますが、企業文化の壁です。
とりわけ厄介なのが「あらさがし文化」です。前例絶対主義、提案が歓迎されない空気、新しいことに対してまず失敗の証拠を探そうとする姿勢。これは日本固有の課題ではなく、海外の方に話を聞いてもグローバルに見られる現象のようです。
あらさがし文化の何が致命的かといえば、何か新しいものが見えたとき、最初に「悪い点を見つけよう」「誰が責任を取るんだ」という方向にエネルギーが向かってしまうことです。
行動を起こすたびに逆方向への力が働く環境では、前に進むのは難しい。
この文化が根づいた背景には、さまざまな事情があるでしょう。
頑張ったけれど裏目に出た、うまく評価してもらえなかった、そうした経験の積み重ねが組織全体の行動様式を変えてしまったケースもあるはずです。
あらさがし文化のもとでは悪循環が
しかし結果として、あらさがし文化のもとでは以下のような悪循環が生まれます。
- 現場が本当の数字を出さなくなる(どうせあらさがしに使われるなら、良いデータだけ報告しておこうという心理が働く)
- 課題を発見しても報告したくなくなる(言わないで済むならそのほうが安全)
- 報告が無難な内容に終始する
- 失敗が「今後の糧」ではなく「減点材料」にしかならない
こうなると、データの精度という一番大事な土台が崩れ、良いことも悪いことも何も起きない「現状維持」だけが組織の行動原理になってしまいます。今あるやり方をキープしながら、ちょこちょこと微調整して何とか生き延びる。それがあらさがし文化の行き着く先です。
このような要因を見極めて対処して行くと、良い結果が出てくると思います。
補足:成功事例の「行間」を読めていますか
ここで、成功事例の読み方についても触れておきたいと思います。
最近、特に製造業の方のデータ活用事例が多く目に入ってくるのですが、表面的に読んでしまうと大事なことを見落とします。
たとえば、ある岐阜の金属加工メーカーの事例をこの間聞きました。
製造現場の生の声からデータ活用を進めた結果、不具合が3年間で約40%減少したという話。
具体的には、現場の困りごとを収集してIT活用を設計し、ダッシュボードを開発。装置稼働データや保守履歴をクラウドで集約・可視化し、熟練技能をAIやeラーニングで伝承する仕組みまで自社開発したとのことでした。
さらっと読むと「なるほど、うちでもできそうだ」と思えるかもしれません。
しかし、行間を読んでいくと、この事例が成立するための前提条件が浮かび上がってきます。
- 「製造現場の生の声からデータ活用を進めた」→ 現場の声が意思決定に使われる文化がある
- 「データ活用を進めた結果」→ データ活用に対してポジティブな風土がある
- 「現場の困りごとからIT活用を設計」→ 困りごとが正直に、正確に上がってくる仕組みがある
- 「IT活用を設計」→ 根性論ではなくテクノロジーで解決しようという発想がある
- 「ダッシュボードを小さく開発」→ データを見て行動しようという行動様式がある
つまり、技術的にどうやったかという表層の情報よりも、「それを実行できる組織の風土があったからこそ成功した」という点のほうがはるかに重要なのです。
事例というものは全体の情報量の10%程度しか表に出ません。
残りの90%が、実際には成功と失敗を分けています。
変化はトップダウンから始めるしかない
AIやデータを活用して、一人ひとりがより気持ちよく働ける状況を作ることは、十分に実現可能です。
WebやシステムやAIは、そのための強力な道具になります。しかし、その道具が機能するには、「新しいことに取り組める土壌」が不可欠です。
もし今、データ活用やAI導入がうまくいかないと悩んでいるなら、研修や自己学習、資格取得といった個人の能力向上だけでは解決しないケースが多いことを知っておいてください。
それよりも、それを取り巻く環境のほうがはるかに重要です。まず上の立場の方から変わっていくこと。客観的な視点を持った外部のパートナーや専門家と一緒に、組織の文化そのものを見直すこと。そこからがスタートです。
社内に波風を立てづらいのであれば、外部の人間に「悪役」を担ってもらう方法もあります。外で働いている人間は、そういう役回りには慣れていますから、遠慮なく使っていただければと思います。
文化が変われば、研修も生きてくる。考え方のシフトを伝えるだけでも効果が出る。道具を揃えるだけでも動き出す。すべては、土壌づくりから始まります。
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