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ラウンドナップWebコンサルティングの中山陽平です。今回は、自治体が行っているAI(Artificial Intelligence、人工知能)の支援と、福岡県北九州市の訪問看護会社の事例をご紹介します。「自社でもAIを使いたいけれど、どう始めればよいか」と考えている中小企業の方へ、研修を受ける入口と、会社の中で使ってもらうまでの話をお伝えできればと思います。
何から始めるか迷っているなら、自治体の研修に触れてみる
うちはAI支援だけを行う会社ではありません。ただ、Webの仕事をするうえでもAIを避けて通る理由はないので、一緒にお伝えしています。その中で感じるのは、国や自治体の力の入れ方の強さです。Webサイトが増えていった2000年代前半にもセミナーはいろいろありましたが、今はそれ以上ではないかと思うくらいですね。
無料の説明会や支援、補助金など、全国のいろいろなところで取り組みがあると感じます。少し前は、議事録を取る、文章を直すといった、比較的やさしい内容が多い印象でした。ところが今は、実際に業務を自動化するところまで扱うものが出てきています。
例えば、今回見た千葉市の事業者向けセミナーです。ノートパソコンを持参し、Claude Coworkを実際に操作して、複雑な作業手順を見えるようにする。そこから業務の自動化につなげる内容です。市内事業者が対象で、参加費は無料。企業規模による制限は案内には示されていません。「生成AIとは何か」を聞くだけでは終わらない内容なんですね。
2026年10月27日に開催される案内で、市は「社員5人分の働きを明日から1人で実現」と、かなり強い表現を使っています。実際に参加枠がまだ空いているかは分かりませんが、千葉市の方は確認してみてはいかがでしょうか。こうした内容が出てくるくらい、風向きが変わってきたと感じます。
私の地元の新座市でもAI関連の取り組みは見かけますし、東京はもっと力が入っていると感じます。「どうしよう、何から始めたらいいのだろう」という方は、一度、こうした場に触れてみるとよいと思います。あるテーマを知りたければ本を2冊読むといわれるのと同じで、いくつか受けて、自分たちに響くものから試す。それでもよいのではないでしょうか。
一般的な使い方を教えるだけなら、民間は厳しくなると思う
支援する側から見ると、正直、一般的なAIの使い方を教えるだけの会社には、この先、勝ち目がないのではないかと思います。公的な支援のレベルが上がり、しかも無料ですから。行政が予算を組み、事業者への支援として進めているところへ、同じ内容で入っていくのは厳しいでしょう。
もちろん、導入するシステムを実際に組める、その業界について深い知見がある、すでにお客様との関係ができていて社内に入れる、といった条件があれば話は違います。研修で知ったことを、会社の仕事として動かす部分には、民間の役割があります。経営計画でもそうですが、計画を実行するところは、専門家派遣などを通じて民間へつながる流れがありますよね。
そこにつながっている会社には、事業の機会があるのだと思います。ただ、そうした関係もないところから、「自分たちはAIを少し使えるから、支援事業を始めよう」と考えるのは、結構危ないのではないかと感じています。支援を受ける側にも、支援を仕事にする側にも、今の状況を見ておいてほしいですね。
ツールを入れる目的を、働く人の方へ向け直す
自社でどう使うかを考えるうえで、面白かったのが、J-Net21に掲載された北九州市の訪問看護会社、プーラビダ株式会社の事例です。単にツールを入れるのではなく、従業員に気持ちよく、質の高い仕事をしてもらうために使う。そのように目的を捉え直した話として、参考になると思いました。
訪問看護の人手不足という背景もあったようですが、それ以上に気になったのが、会社の組織の問題です。同社では、社員が40人規模に増える中で、社長、管理職、現場という階層の間で意思疎通が難しくなっていたそうです。会社が目指しているものと、現場の人が欲しいものがずれてしまう。コロナ禍も重なり、離職率は83.3%に達したと紹介されています。算出の細かい条件までは分かりませんが、10人採用したら8人辞めるような、地獄のような状態ですよね。
当初は、DX(Digital Transformation、デジタルトランスフォーメーション)をコスト削減のために考えていた。それを、社員を守り、一人ひとりの働きがいを生むために使うと、目的を決め直したそうです。Google WorkspaceやGeminiを使った取り組みですが、私が気になったのは、どのツールを選んだか以上に、この目的の見直しです。
40人規模の会社で、最初に使ったのは2人
ただ、社長が「これを使って生産性を上げよう」と言っても、すぐには広がりませんでした。「今までのやり方で何が悪いのか」といった反発が起き、最初に使っていたのは2人だけだったそうです。40人規模の会社で、2人です。DXではよくある話かもしれませんが、便利だと説明すれば使ってもらえる、というものではないんですね。
参照:J-Net21:Google Workspace導入時の反発
そこから身近な用途で使ってもらい、社員にとってのメリットを伝えていく。文字にすると「それはそうだよね」と思うのですが、現場で判断し、受け入れてもらえるように伝えるところが、いちばん大変だったのではないかと思います。記事では詳しく書かれていない、その紆余曲折が気になるんです。
「生産性10%改善」より、「報告書が1時間から5分」の方が伝わる
入口になったのは、訪問看護で毎月作る報告書でした。J-Net21の記事では、利用者一人分に1時間以上かかっていた作業が、Geminiの利用によって90%短くなったと紹介されています。会社側の資料では、報告書の作成が「1時間から5分」になったと示されています。
参照:J-Net21:報告書作成の時間短縮、プーラビダ:自社のDX実践
上の人が「会社の生産性が10%改善するぞ」と言っても、現場の人には「10%と言われてもな」となりがちです。でも、「毎月1時間かかっていた報告書が、5分でできるようになる」なら、自分の仕事として分かります。社員に伝える内容を、そうした身近な変化にしていく。小さな成功を積み重ねることは、やはり大事だと思います。
Google Workspaceを使って社内ポータルを作るなど、ほかにも取り組みがあります。ただ、まず社員自身が便利さを感じると、「こうすれば情報を簡単に得られる」「この使い方を教え合おう」という話が出てくる。ツールの利用と一緒に、社内の情報共有やコミュニケーションも変わっていったのだと思います。
空いた時間を、人を減らすためだけに使わない
報告書が1時間から5分になったら、残りの時間をどう使うか。「それだけ空いたなら、人を減らせるよね」「採用を減らせるよね」と考えるのをやめ、看護師の研修や資格取得に使う。今いる人を大事にする方へ時間を回したことが、大きいと思います。
社員が技能を身につければ、会社としても、より高度なケアを担当できるようになります。社員の仕事への気持ちや役割が変わり、視野も広がるでしょう。社員にとってもうれしく、会社にとってもうれしいことに使う。この考え方への切り替えが、事例の大きなポイントだと感じました。
言い方を変えただけで、信じてもらえるだろうか
もっとも、経営者がそう言ったところで、最初から信じてもらえるとは、私は思いません。「資格を取っても、どうせ給料は上がらないだろう」といった反応もあったのではないでしょうか。これは記事に書かれた社員の発言ではなく、私が自分の会社へ置き換えて考えたときに、引っかかるところです。
どんな伝え方をして、最初はどんな反応があったのか。記事ではさらっと読めても、自社で真似をしたら、ここで反発が起きて進まなくなることはありそうです。成功事例では、うまくいくまでの難しい過程が短く見えがちなんですね。
もう一つ、失敗を責めないことも大事です。知らないツールやAIをいきなり使うように言われれば、最初は失敗します。それを責めると、使わなくなるか、失敗を隠すようになる。マネジメントとしては、最悪の状況ですよね。記事には失敗を許容する風土があったと書かれていますが、それも含め、会社の文化を変えようとしたのではないかと思います。
気持ちだけ変えても、給料などが何も変わらなければ、社員には伝わりにくいですよね。会社が従業員に向き合う姿勢を変えるだけでなく、それが働く人の成果にもつながる。そこへ、使えば仕事の負担を減らせるAIがあった。「自分のための改革なんだ」「自分のためにも使えるようになった方がいい」と感じられたから、利用が広がったのではないかと思います。
大きな数字を、AIだけの成果として読まない
紹介されている結果は、大きなものです。J-Net21では、離職率が83.3%から7.7%へ下がり、記事で述べる直近1年間の退職者はゼロ、生産性は約1.5倍、利益率は10%を超えたとされています。取り組みの前後で、会社の状態が大きく変わったことがうかがえます。
会社側の資料では、営業利益も1,500万円の赤字から、1,400万円の黒字へ改善したと紹介されています。ただ、これを読んで「AIを正しく入れれば、どの会社も同じように黒字になる」とは思いません。この規模の変化であれば、いろいろな要因があるでしょう。
離職率が83.3%から7.7%になったことも、正直、AIだけの成果とは思えません。生産性を上げようとする社内の意欲があり、ほかの取り組みも動いていたはずです。情報共有、人間関係、教育制度、評価制度。そうしたものを変えていった結果、AIの導入もうまくいった事例ではないでしょうか。
人を減らすためではなく、今いる人に、余計な仕事を減らして、もっと気持ちよく価値の高い仕事をしてもらう。経営者や管理職だけでなく、社内で周りを動かしてくれる人も含めて進めたのだろうと思います。ツールの導入と一緒に、会社の体制や人への向き合い方も変えたところを読みたいですね。
自社で止まっている理由を、事例と照らしてみる
「AIを使いたい」と言いながら、雰囲気としては何も動いていない会社もあります。そういうときは、何のために導入するのか、社員にどう伝えるのかといった部分へ本腰を入れていないか、「便利なら、そのうちみんな気づいてくれるだろう」と思っていないか。導入の目的と、働く人への伝え方を確かめてみてほしいと思います。
この事例から参考になることがない会社は、あまりないのではないでしょうか。私は、こうしたことをすべてやり切れている会社には、なかなか会いません。元の記事を社内で一緒に読み、自分たちなら、どこで引っかかるだろうかと話してみるのも面白いと思います。
自治体の研修で知った先、実際に自社で進めるところは、自分たちが必要に応じて外部の会社と一緒に取り組むことになります。この事例の考え方を取り入れて、一つでも多くの会社が、働きやすい場所になっていけばと思います。うちも、できることがあればご協力したいですね。
まとめ:AIを知る入口と、社員に使ってもらう仕事をつなげる
- 何から始めるか分からなければ、自治体の無料研修などで実際に触れてみる。いくつか受け、自社に合うものを探すのもよいと思います。
- 社内では、ツールの導入そのものより、働く人のどの仕事が、どう楽になるかを伝える。報告書が1時間から5分になるという変化は、その人の仕事として伝わります。
- 空いた時間を、今いる社員の研修や資格取得などに使う。ただし、そう説明すればすぐ信じてもらえるとは限りません。現場の反発や、受け入れてもらうまでの過程も考えたいところです。
- 離職率や利益の改善を、AIだけの成果とは捉えない。情報共有や教育、評価、人との関係も含めて会社を変えた事例として読むことが大切だと思います。
引用元・参考情報
よくある質問
- 中小企業でAIを使いたいときは、何から始めればよいですか?
- 私は、自治体の無料研修などで実際に触れてみることを勧めます。いくつか受け、自社の仕事に合いそうなものを見つけるやり方でもよいと思います。研修で知った後、会社の中で使えるようにする取り組みは、自分たちで進める必要があります。
- AIを社内へ導入しても、社員が使ってくれないのはなぜでしょうか?
- 便利さを経営者が説明するだけでは、社員にとっての利点が伝わらないことがあります。プーラビダの事例でも、40人規模の会社で最初に使ったのは2人だったと紹介されています。導入の目的と、社員自身の仕事がどう楽になるかを、具体的に伝えられているか確かめたいところです。
- 生産性が上がることを、社員へどう伝えればよいですか?
- 「会社の生産性が10%上がる」よりも、「毎月1時間かかっていた報告書が5分でできる」の方が、自分の仕事として理解しやすいと思います。報告書の時間短縮は、プーラビダが公表している変化です。数字をそのまま自社の約束にせず、自分たちの身近な仕事で何が変わるかを示すことが大切です。
- AIで空いた時間を、どう使うかも重要ですか?
- 重要だと思います。プーラビダの事例では、空いた時間を看護師の研修や資格取得に使っていました。人を減らすことだけを考えず、今いる人を大事にし、社員にも会社にもプラスになる使い方へ変えた点が大きいと感じます。ただ、方針を伝えればすぐに信じてもらえるとは限りません。
- AIを導入すれば、離職率や利益も同じように改善しますか?
- どの会社でも同じ結果になるとは思いません。プーラビダの離職率や利益の改善も、AIだけの成果とは捉えていません。情報共有、人間関係、教育、評価など、会社全体の取り組みがあったから、AIの導入もうまくいった事例だと私は考えています。
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